秋田県南 塩ラーメン特集③ 中華そば de 小松 春の再訪
春の陽ざしが水面を撫でる午後。
湿気を帯びた風に揺れる柳の枝先を見ながら、大仙市・丸子川沿いを歩く。
7年ぶりぐらいに『中華そば de 小松』を訪れたのは、「学校帰りによく行ってたっけなー」という甥っ子のことばがきっかけだった。私と同じく大曲高校に通っていた彼が、日常的に立ち寄っていた店。
私の高校時代の「定番」といえば、『南園』の中華丼だったが、彼らにとっては『小松』がセイシュンの味だったらしい。そんな彼らの青春という名のヌードルを、また確かめに行きたくなった。大曲の高校生の記憶、平成初期と後期がパラレルになるような、そんな体験をしたくなった。
さて、『中華そば de 小松』。
店主は東京・池袋の名店『麺屋Hulu-lu』で修業を積み、2014年に大仙市で開業したという。『Hulu-lu』といえば、サーフカルチャーとハワイの空気感をまとった店づくりが印象深い。私自身も創業当初に取材で訪れた記憶があるが、無二な存在感のあるお店だ。
修業時代の姿は知らないが、インスタグラムを見ると、小松店主もサウナや居酒屋を愛し旅を楽しむ、自然体のライフスタイルがうかがえる。今回選んだ塩ラーメンも、そんな柔らかな感性がにじみ出ていたように思う。

塩中華そば(750円)
――シャープでありながら、決して攻撃的ではない塩の設計。
スープは、透き通るようでいて、ほんのりとした濁りがある。その淡い色合いに、揚げネギの香味と柚子のアクセントが重なり、奥行きとコクを演出する。

重層的というよりは、曳光弾のようなシャープさ。出汁の中に淡くまっすぐ、塩の描線が描く輪郭。
中細ストレートの自家製麺は、パツ系の緊張感を脱ぎ捨てた、柔らかで反発ある、プリンとしてムチ”な質感。スープと調和しながら、静かに存在を主張する。トッピングで目に留まるのは、茎がほんのり桜色のかいわれ大根。ピリッと爽やかで、薬味としてのバランス感も抜群だった。

ランチタイム終盤の穏やかタイムライン入店したせいか、限定麺とおぼしき丹念な仕込み風景をちらりと目にした。厨房の手元と密やかな技巧。張り詰めた緊張感はないが、緩みもまたない。料理人としての誠実さと、店としての間合いがしっくりくる。工房のようなミニマムな店内の外には、キンミヤのブルーの看板。さりげなく伝わるスタンス。

思えば、ここを初めて訪れたのは2018年、晩秋の夜。底冷えはしないけど、しんとして雪ちらつく空気の中でいただいた醤油ラーメンの湯気とあたたかさは、いまでも心に残っている。
今回の再訪は春まっただ中。高校生たちの「放課後」が、この店でどんな時間を刻んでいたのかを想像しながら、私は「今」の塩ラーメンを啜った。ハイブラウな限定あれど、ノーマル750円――。高校生にとって「等身大のごちそう」であり続けること。それも、この店のどこかにあるような気がする。
季節も、世代も、時間も超えて、丸子の河畔で静かに貫く“Still Shining”あり。
秋田県南 塩ラーメン特集②十五年の進化が“塩”に結晶─大曲『麺屋 十郎兵衛』円熟のうまみ
桜の気配を感じながら、大曲。
駅についてすぐ、妹と合流して向かったのが『麺屋 十郎兵衛』。創業は2010年。濃厚豚骨魚介が全国的ムーブメントとなっていた時代、その渦中に秋田での開業を決めた、一杯入魂のラーメンフリークがいた。
佐藤店主は、松戸『とみ田』の味に感銘を受け、自分なりの表現を模索したという。私が2013年に初訪した際、いただいたのはラーメン(魚介豚骨)。その味からは、豚魚スープの濃度や構成をドカンと“真ん中直球”で押すのではなく、ミディアムにまとめ上げ、幅広にストライクゾーンを取ったような絶妙な配球を感じた記憶がある。
あれから10年以上が経っての再訪。県南のラーメン地図を塗り替えるように、いまや『十郎兵衛』は実力派としてプレゼンスを増している。
店内ランキングに見る「現在地」
今回はまず、店内に掲示された人気ランキングを見てみよう。
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1位:濃厚塩ラーメン(950円)
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2位:あっさり魚介中華そば(800円)
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3位:魚介豚骨ラーメン(950円)

フラッグシップである「濃厚塩」をいただこう。こちらと豚骨魚介が上位を固めつつ、800円台の手頃な価格帯をしっかり押さえているのがこの店らしい。観光客でもラーメンマニアでも、地元の家族連れでも──誰もが構えることなく入店できる絶妙なバランス感覚がある。

店舗のすぐ脇には製麺室が併設されており、麺の内製化でトータルの完成度を高めていけるのも大きな強み。さらに近場にはセカンドブランド『自家製麺 佐藤』も展開し、隣の美郷町には弟子筋の『麺屋はじめ』もオープンした。地元店主との交流も活発だというし、『十郎兵衛』は秋田県南ラーメンのハブ的な存在になりつつあるようだ。
濃厚塩ラーメン:静と動が共存する設計美
さて、そんな人気1位の「濃厚塩ラーメン」。スープのルックスは、いわゆる澄み切った清湯系ではない。やや白濁した“薄濁り”の色合いが、そこに込められた出汁の厚みを物語る。油脂感はどっしりと構えながらも、飲み口は重すぎず、レンゲが進むたびに“余白”を感じる。呼び水ならぬ呼びスープを誘う設計だ。
塩かえしは、丸みとキレを両立させるパンチ系。重層的に旨味が積み上がるというより、一定のフォームからバレットのように塩味が重ね撃ちされる、『はじめの一歩』沢村のようなスタイル。全体を引き締めつつ、鋭すぎない。これが絶妙だ。
メンマと肩ロースチャーシューは、形式的なフォーマットの中にもきちんと“食べやすさ”が設計されており、クラシックとモダンのバランスを保っている。

特筆すべきは中やや細のストレート麺。“パツ系”の張り詰めた緊張感ではなく、柔らかく反発するような“プリンムチン”な質感で、口の中で暴れずにスープと調和する。スープの個性に流されず、かといって主張しすぎない。味の“整理係”として、静かに役割を果たしている。
遊び心とラーメンフリークの魂が宿る
もうひとつ驚いたのが「全メニューを“二郎系”にできる」+250円トッピング。ニンニク、モヤシ、背脂、キャベツという構成で、なんとこの濃厚塩すら二郎化可能という懐の深さ。これは、フリーク出身の店主ならではの遊び心であり、多様なニーズを柔軟に受け止める“包容力”でもある。

進化の歩みを止めないこの店が、2025年4月のAKT秋田ラーメン総選挙で4位にランクインしたのも納得だろう。
秋田県南 塩ラーメン特集①東京から秋田へ、そして塩ラーメンが花開く─『鬼そば藤谷総本店』の静かなうまみ
NYラーメングランプリ3連覇の実績を持つ「HEY!たくちゃん」こと藤谷拓廊さん。彼が手がける「鬼そば藤谷」が、この4月1日、東京・浅草から秋田・大仙市へ移転オープンしました。

桜満開に向かう早春の大仙市、横手盆地。私の実家からクルマで20分ほど。
10時20分から整理券配布と聞き、その10分前に到着したら、前には20人ぐらい。並んでいるのは、お達者カーを携えたご年配、ミドル夫婦など、秋田ローカルらしい面々。

整理券を受け取ってから、10時40分回に接続。店内は、座敷席もあるドライブイン食堂的な居抜き。1回で6組のみのご案内、テーブルに歯抜けで座る、ゆったりとしたダイニング。窓からは斉内川堤の桜並木が望め、春の気配に包まれます。
ドンパン節の里から始まる、新たなラーメンのストーリー
大仙経済新聞によると、きっかけは、昨年の「大曲の花火」イベント出店とか。秋田産の美人ねぎ、杜仲豚、比内地鶏などの地元食材に惚れ込み、「納得の一杯」を求めて、ついに移住・出店を決意した藤谷さん。
舞台となったのは、「ドンパン節」発祥の地として知られる大仙市中仙。道の駅で、しっかりと開店前から行列をつくる。浅草時代から愛用する浅草開化楼の麺に、秋田の素材を重ねた一杯。“中央”から“地方”へ。ラーメンの新しい潮流を体現する存在になっています。
滋味深い塩ラーメンに鬼が笑う
さて、今回いただいたのは「鬼塩ラーメン」(1000円)。
渋谷では一度食べたことがあったけど、浅草時代の味は未体験。味噌ラーメンは浅草開化楼の麺使用とのことだが、エヌアールフードの直送箱を見かけたので、塩や醤油は支那そばや系列の麺だろうか?
さて着丼。スープは黄金色に輝き、透明度よりも、ふわっと光が巡る偏光パールのような油膜のきらめき。飲み口は、うるるとさららというか、やさしい滑らかさに包まれる感じ。トッピングには、エッジの立った白ネギ。これが秋田美人ねぎか。軟白で揮発性の辛味成分が少なく、シャリっとした甘みが心地いい。

同行した妹は「伝承醤油らぁ麺2025」を注文。ラーショの半分ぐらいのイメージで、ネギがどさっと盛られていた。この甘みをたたえたネギは、札幌『喜来登』のように味噌とも相性が良さそうだ。


鬼塩ラーメンの総評、ローカルに寄せて言うなら、秋田弁でいう「へわしねびんがびんが系」(しょっぱさ・塩角の強さ)ではなく、「まんつゆったど食え」(とにかく、まあゆっくり食べてみな)的なニュアンス。鶏のキレや塩のミネラルで圧倒するタイプではなく、トータルバランスの中に、静かなうまみを宿す一杯でした。次は味噌の真価も確かめに、また来なければと思わされる一杯でした。

藤枝流「朝ラー」が下北沢に登場!ダブル温冷で新感覚の麺体験
朝ラーメンといえば喜多方ラーメンも知られてますが、静岡県藤枝市も「朝ラー」とイコールで結ばれるエリア。市内には10店以上で朝ラーを提供しており、朝のラーメンが風土、カルチャーとして根づいている土地なんですね。

そんな藤枝と下北沢がいろいろ企画を仕掛けているようで、その一環として展開しているのが、朝ラーメン店『まる藤ラーメン 下北沢』(1月20日~3月24日までの期間限定)。
このコラボに携わるしもブロ・黒田正信氏から情報を聞きつけ、さっそく試食会に行ってきました。

藤枝流朝ラーは「温」と「冷」をセットで食べるのがスタイル。元祖と言われる志太系は魚介系ですが、現地では醤油や豚骨系でも温冷をラインナップする店が増えているとか。

今回の『まる藤ラーメン』は
温:ゆず香るカツオだし醤油ラーメン
冷:天磯おろし冷ラーメン
が、セットで1150円。
まずは「温」が提供され、ほどなくして「冷」が運ばれてくる、という様式です。

こちらは、先鋒の「ゆず香るカツオだし醤油ラーメン」
窓際の席に座ったら、期せずして自然光差し込み。これまた朝ラーっぽいですね。
藤枝は焼津に近いというロケーションもあり、カツオだし、そしてババっとかかったカツオ節とも親和性があるのでしょう。ゆずフレーバーをファーストタッチにして、やわらかい醤油で味わいのブロード攻撃。ツルツルと口中を滑っていく細麺も好印象。

ギアを上げて食べ進もうかという頃合いで、「冷」の「天磯おろし冷ラーメン」見参。こちらは一転、涼やかなガラス麺皿。こちらもカツオ節とあおさ、大根おろしに梅ペースト、ショウガも盛られて多彩な味わいと食感。しすてメイン具材に鶏天で食べごたえもバッチリ。「温」の細麺から変わって、歯応え重視の太麺を合わせてある。

温度差だけではなく麺やボリューム感、食感、スープの甘感も好対照。ポーションも小さめなので、2丼でも腹十一分目ぐらいの、ちょうどいい塩梅。この出店情報をアップしたら、朝ラーを知るフリークたちは「藤枝ラーメンが東京で!」と驚いてましたが、温冷併せ持つ企画感と話題性、井の頭線小田急線ユーザーに広く訴求しそうです。営業時間は朝6時から13時まで。飲み明かし後に行けるスタミナはないですが、元気ある方はゼヒ。
[朝ラー]まる藤ラーメン 下北沢(フジエダ勝手にプロデュース、通称「フジカツ」)
https://fujieda.pro/marufuji-shimokitazawa/
